
今年度担当している学生さんが、「子どもの感情表現」をテーマに卒論を書くことになりました。
学生さんの卒論指導は、いつも私の新しいドアを開けてくれます。
私も関心のあるテーマ。まだまだ形になっていませんが、完成が楽しみです。
学生さんと一緒に必要な文献を調べていたなかで見つけたのが大河原美以さんのご本。
大河原美以『ちゃんと泣ける子に育てよう~親には子どもの感情を育てる義務がある』(河出書房新社、2006年)です。
そもそも、なぜ私が感情表現に関心をもったのか?と振り返りました。
それは、子どもの暴力防止に大いに関連があるからです。そうだった、そうだったと思い出しました。
子ども自身が、暴力から逃げるためには、まずその子自身が「いやだ」「気持ち悪い」「こわい」と感じることから始まるように思います。そんなふうに感じることができて、初めて「逃げてもいい」「話してもいい」というメッセージがその子の状況を変える具体的な方法になるのです。なので、先日紹介した『いいタッチ わるいタッチ』の絵本でも、「『いやだ』『へんだな』と思ったら…」と書かれるように、その「感じる」ことが重要なのだと思います。
『いいタッチ わるいタッチ』の記事はこちら↓
http://chisanatobira.exblog.jp/237711542/
今日紹介するこの本は、「なぜ子どもの感情表現が大切なのか、それをどう保障するのか」について丁寧に書かれた本です。
大河原さんは、「感情の社会化」について説明し、そして、それは、自分の感情を他者に伝える基本だといいます。
そして、現在では、ポジティブな感情の社会化はある程度なされているけれども、ネガティブな感情の社会化が十分でないという問題状況も伝えます。(34ページ)そして、ネガティブな感情を周囲にいるおとなが承認する、それによってその子どもは自分が感じている不快感に言葉が与えられることが「感情の社会化」のプロセスだと説明しています。
日々の生活で、子どもが抱える1個ずつの負の感情を、ポジティブな感情同様に承認し、言葉にして応答する。でも、負の感情はおとなもなかなか受け入れるのが難しい。
最後の第5章が、なかなかせまってくるものがあります。
「子どもは、安定した大人の前でしか、泣けないのです。ですから、『ちゃんと泣ける子に育てよう』というメッセージは、私たち大人が苦しみや痛みから逃げないでいこうというメッセージでもあります。そういう意味で、『親には感情を育てる義務がある」という強い言葉を入れました。いま、問われているのは、私たち大人が苦しみから逃げないで、向き合っていく覚悟がもてるかということだからです」と。
生きていれば、楽しいことや嬉しいことがあるのと同様に、苦しいことや大変なこと、怒りもあるのがふつう。それをなかったことにしないで、一緒に受け容れて生きていくことを伝えておられるように思います。
同時に、「受容」の厳しさの部分は納得しながら読みました。
苦しみを受容するということは、「苦しみを苦しめるようにする」というある意味残酷な側面を伴う仕事です。…苦しみを見つめ、苦しみを苦しむことに寄り添うとするとき、そこにはじめて受容が生まれます。そういう意味で受容された人は、みずから、光を見出していく力を得ます。…子どもの苦しみを親が苦しむことができるようになったとき、子どもは自分の苦しみを半分にすることができ、光を見出していくことができるのです(205ページ)。
児童養護施設で奮闘される施設職員の先生方の顔が浮かびます。
日々のなかの、小さな負の感情から深く重い苦しい感情まで、広く視野に入れながら、子どもの感情に寄り添っていくことを書かれた本だと思います。子どもの感情表現を支えることを考える、理論的な本です。
具体的にそれを子どもと実践していくことを助ける絵本は、また次回。