
3月も今日でおしまい。
桜は美しいものの、新しい旅立ちには心がざわめくこともいっぱいある春ですね。
それでも、出発は出発。
それぞれの場所で、新しい日々を始める方たちに届けたい1冊を
ご紹介したいと思います。
ご紹介する本は、
『ヤマネコ毛布』(山福朱美 作・画、復刊ドットコム、2015年、2,000円)。
出版社からの紹介はこちら。
本書は、復刊ドットコムより、
2007年・パロル舎刊『ヤマネコ毛布』を底本に、再編集して復刊されたものです。
復刊されたことに心から感謝。
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ある日、森に住むヤマネコは、旅に出ることに決め、森の仲間たちにそう告げます。
それを聞いたハリネズミは、仲間たちに針と布を配り、
それぞれの思い出を「刺繍」して、ヤマネコへの餞別にしようと提案します。
森の仲間、サル、トラ、カワウソ、オオカミ、トリ、ノウサギ…
それぞれが、ヤマネコとの思い出を針と糸にこめて刺繍します。
その思い出は、決して楽しいものばかりではありません。
痛かったことも、悔しかったことも、それぞれがヤマネコと過ごした時間を縫いこんで…。
ヤマネコは、そんな仲間たちとの「思い出」を担いで、新たな一歩を踏み出すのです。
落ち着いた色合いの、美しい木版画で綴る、温もりあふれる一冊。
卒業のシーズンに是非、手にとってほしい“旅立ちの絵本”です。
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なんだか↑ の文章でレビューは十分かな、とも思います。
と思いつつ、私が感じたことも言葉にしてみたいなと思います。
生きるってことを実直に描いている作品だなと思うのは、
本当に率直に嫌なことやしんどいことも含めて思い出として
描いているところかもしれません。
例えば、りすは、こんなふうに抵抗しています。
そして、ヤマネコは、「うわおん」と泣きながら出発します。
「うわおん」「うわおん」って。
そうそう、本当に泣きながら、うしろを振り返りながら
歩みをすすめるしかないのだと思います。
森の仲間たちがつくった毛布はずっしりと重く、あたたかで、
ヤマネコをゆっくりと休ませてくれます。
子どもが旅立つまでに、
大人たちができることは、なんだろうか。
ただ、育てる、身体を大きくすること、時間を過ごすことだけが
養育の目的ではないことをしみじみ伝えてくれます。
痛いことも苦しいこともあるかもしれない。
それでも、トータルとしてあたたかくて、寛げる毛布を子どもたちに
持たせることができるか。
新しい旅立ちを支えるような毛布を紡げるような日々をおくれているか。
そんなことをしみじみと考えさせられる本です。
私は、社会的養護にひきつけて読みすぎですが、
絵本の版画が素晴らしくて、
久しぶりに心が震える素晴らしい絵本に出会ったなあと思っています。