「よくわからない・・・。」
そんな気持ちをこんなにも長い間、世界中の人々が抱えたことがあっただろうか。
それも、暮らしのあり方まで変えなくてはならない「わけのわからなさ」・・・。
日を増すごとに人々が疑心暗鬼になっていくのが怖かった。
日々の楽しみや喜びが「不要不急」にまとめられ、
身近な友達や家族とすら思いをうまく分かち合えない息苦しさ。
人々の顔が半分しか見えなくなり、街には姿がなくなっていった。
私はしばらく殻に閉じこもることにした。
この嵐が過ぎ去るまで、凪が訪れるまで、じっとしていましょう。
少しの間、我慢すればきっと大丈夫。
静かに、静かに・・・。
しかし、この嵐の力は予想を遥かに超えていた。
殻に入った私をぶんぶん振り回し、グラグラ揺さぶり、
自分がどこにいるのか、どこに向かっているかも見失いそうになった。
海は「シカタナイ・シカタナイ」といいながらうねり続け、
空には「ホンネヲイワナイ・キモチハイワナイ」と灰色の雲が重く垂れ込めていった。
強い雨風に、家のない人たちや病んだ人たち、小さな人たちのことが心配だった。
そうして、私は何も感じられなくなっていった。
「はあ、もうぜんぶ 疲れちゃったなー。」
そんな時だった。
コツコツ コツコツ・・・誰かが私の殻を強くノックした。
それは遠くに暮らしていた友達の赤い鳥だった。
嵐のなか、はるばる私を探して飛んできたのだった。
「あぁ、momoちゃんここにいたのね。やっと見つけた。
あのね、あのね、あなたに、ぜひ力を貸してもらいたいの。
子どもたちのために絵を書いてくれない?」
私は驚いて返事をする。
「あぁ、赤い鳥さん、無事だったのね。
あなたの力になりたいけど、
今はもう、私には絵を描く力もイメージも残っていないの。
もう、ダメだと思う。」
それでも、赤い鳥は話し続ける。
「大変だったよね。でもやっぱり、おかしいと思うんだよ。
いろんなことが一方的すぎるし、
このままでは、しんどい子どもが増えるのは目に見えている。
だからね、どれくらい出来るかわからないのだけれど、
私は自分ができることをしようと心に決めたの。
それでね、私がしようとしていることには、
どうしてもあなたの絵が必要なんだ。
絵を描くのは、momoちゃんしかいないんだよ。」
「えっ?!私しかいないの?」
「そう、あなたしかいない。
だから、こうして私はここまで飛んできたの。
はい、これラブレター。
これを読んで、あなたが思うように絵を描いてみて。
どんなに時間が掛ってもいいから。
このラブレターにあなたの絵を添えて、たくさんの大人や子どもたちに届けようと思うの。」
「えーっ、ラブレターを?たくさん届けるの?!外は嵐だよ。」
「そう、嵐だけど届けるの!
それに、あなたの絵を見たら、
怖がっている小さな子どもたちもきっと喜ぶと思うの。
ねえ、素敵だと思わない?だから、ぜひ力を貸してもらえないかしら?」
「うん、わかった。うまくできるか分からないけど・・・。
そしたら私、あなたのラブレターにお返事するつもりで、絵を描いてみるね。」
(2021.4.12 momo)