
今回紹介する絵本は、『あなただけのちいさないえ』
(作:ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ、絵:アイリーン・ハース、
訳:星川 菜津代、童話館出版、2001年)です。
原作は1954年。半世紀以上読み継がれている本です。
絵本はこんなふうに始まります。
「ひとには だれでも、そのひとだけの ちいさないえが ひつようです。
おとこの子は だれでも、その子だけの ちいさないえを もっているものです。
おんなの子は だれでも、その子だけの ちいさないえを もつようになるでしょう。」
そして、「ちいさないえ」がどんなものを意味するのか具体的に紹介されていきます。
「いろいろなところが、ひみつのいえ」になり、「おおきなかさ」、
「やぶのうしろの くぼみ」、「ダンボールのはこ」も「ちいさないえ」
になることを伝えています。
ここでいう「ちいさないえ」というのは、いわゆる住居としての家を指していません。
おとなの言葉で考えると、自分らしく安心して過ごせる場所、
自分のために使うことができる時間といえるでしょうか。
わたしがわたしであることの自由について描かれているようにも思います。
もちろん、「ちいさないえ」をどうとらえるのかということは、読者に委ねられています。
ただ、この男の子と女の子によって「ちいさないえ」のもち方が異なる点は、気になっています。
絵本では、人と一緒に過ごすことの楽しさと喜びも表現されます。
様々に楽しく遊ぶ子どもの姿や、おとなといっしょだからこそできる楽しみが描かれています。
「それでも…」と作者は語りかけます。
「ときどき あなたは、みんなとはなれて ひとりになりたいと、おもうときがありますよね。
なかまといっしょに、でもなく。おとなのひとといっしょに、でもなく。
だれとも、かかわりたくなくて。そんなとき、あなたが、
あなただけのちいさないえを もっていれば、どんなにかよいでしょう」と続きます。
子どもであっても、ひとりでいられることやじっと静かに過ごす時間、
孤独でいられることの大切さが伝わってきます。
最後に、おとなにも「ちいさないえ」があることが伝えられます。
そして、それぞれの「ちいさないえ」を尊重することが
具体的にどのようなことであるかを伝えます。
それは、次のような文章で表現されます。
「もし あなたが、だれかの ちいさないえのそばを とおるときは、
わすれないでください。れいぎただしくすることを、
そっとあるき、しずかにはなしかけることを」といった具合に。
私の娘が4歳くらいのころ、この絵本を一緒に読みました。
読み終えた後、私たちそれぞれが思い描く「ちいさないえ」を出し合って、
お互いにほっとしたことをおぼえています。
そして、「ちいさないえ」という言葉が、当時の私たちの共通言語にもなりしました。
ちょっと休みたいな、と思った時、
「今『ちいさないえ』にいたい気分だから横になっていいかな?」と話すと、
私が求めていることを理解してくれ、助かったことをおぼえています。
おとなが親であることを一旦休止したい時に、お互いに共通理解がもてること、
子どもが「私のことがいやなのかな?」と思わなくてすむ点がよいところです。
同時に、子どもには子どものペースで生きている時間やペースがあり、
そのことを踏まえた声のかけ方や接し方についても考えさせられました。
子どもには、子どもの「ちいさないえ」があって、そこは親であっても、
子どもにかかわる専門職であっても、勝手に侵入したり、
すべてを明らかにしようとしたり、
自分のペースに持ち込んでしまわない…そんな姿勢が求められるのではないでしょうか。
モノクロの繊細な絵とともに、大切なことを優しく伝えてくれる絵本です。
以前書いた記事はこちら。
(ちゃいるどネットOSAKA vo1.110 2022.12掲載)